MESSAGE学術院長メッセージ

社会科学総合学術院長早田 宰

本プログラムのねらい

VUCAといわれる予測困難な時代を生き抜くために、社会を支える知識や大学のあり方も大きく変わりつつあります。先行き不透明な未来に対応するため、「たくましい知性」と「しなやかな感性」によって前に踏み出す覚悟をもった人材の育成が急務となり、同時に、Society5.0時代にあわせて学び方のメソッドやスタイルもアップグレードすることが求められています。

こうした社会変化の波に応じた新たな大学教育モデルを作るため、文部科学省「知識集約型社会を支える人材育成事業」が始動しました。今回、早稲田大学は「ソーシャルイノベーション・アクセラレートプログラム」として新たなインテンシブ教育のモデルを提案し、採択されました。

インテンシブ教育とは、大学における従来の講義形式(セメスター制・15回講義)にこだわらない、集約的・効果的なカリキュラムのことです。新しい知を創造するため、探求学習、プロジェクトベース学習、社会連携、プログラミング、コミュニケーションなど、じっくり集中して取り組む学びが今後増えてくるでしょう。また、新型コロナウイルスの流行により、世界的にオンライン学習が普及しました。国内外の大学、企業、団体、行政、地域など、様々な組織がオンラインおよびオフラインの学習機会をバリエーション豊かに増やしています。これらの多彩な学びを効果的に組み合わせた、新しい学びのスタイル――学習者がみずからの学びをデザインし、興味・関心のある問いの探究に思う存分取り組める学びの場、それを実現するのが「ソーシャイノベーション・アクセラレートプログラム」です。

学生の成長のために

早稲田大学社会科学部は、ディプロマポリシーにおいて、「複雑化するグローバル社会において高い志のもとに自ら課題やその解決策を明らかにし、国際社会および地域社会において周囲を巻き込みながらその実現を図るソーシャルイノベーションの担い手」の育成をめざし、「学際性」「臨床性」「国際性」という3つの力の育成に尽力しています。

昨今、知識のニーズやソースは増えるばかりですが、人間の体はひとつです。学びたいことがあっても、現実的に到達できなければ意味がありません。「履修したい講義が別の講義と重なってしまった」「多めに科目登録をしたが授業についていけず、中途半端になってしまった」「留学に行きかったが、機会を逃してしまった」――本プログラムは、アクティブな学びの悩みをもつすべての学生を対象としています。

とくに校外活動、国内外のフィールドワークといった、越境しながら社会に開かれた学びに取り組みたい学生をサポートします。また、大学に入学してからゆっくり自分の将来について考えたい、専門はその後選びたいという、いわゆるレイトスペシャリゼーションを志向する学生にも貴重な時間を提供するはずです。

さらに、大学と日常生活の両立に悩む学生もサポートできるでしょう。たとえば社会人になってから大学や大学院で学び直したい方や、ライフスタイルを理由としてオンラインベースで学びたい方にとっても新しい可能性をひらくかもしれません。

学びの時間や方法は、学生だけで解決できる問題ではありません。カリキュラムや各種制度、サポート体制を整備する必要があり、それが本プログラムのアプローチすべき課題となっています。

大学の教育はどう変わるのか

これからの大学の役割は、学習者が自分の問いを設定し、探究していく「自己調整学習者」を育てることです。早稲田大学社会科学部では、ディプロマポリシーにおいて、「理論と実践、思考と行動を往還しながら、矛盾や葛藤を自らが乗り越える主体的な自己修正力を身につける」ことを目標に定めています。

現代社会のグローバルで複雑な問題は、多領域の知を結集しなければ解けない問題が多く存在します。個人の知より集団の知が勝るという考え方から、集団の知が発揮される社会の環境条件を整え、個やコミュニティのコミットメントをいかに引き出すかが課題となっています。大学という場を、「共に学び合い、問い、対話しながら考究し、新しい知を創造する、いっしょに前に踏み出す」という知の重ね合いの実践を経験し、そのスキルを訓練する場としてデザインしていきたいと思います。

本プログラムでは、「ソーシャルイノベーション・ラボ」の活動、社会連携コーディネーターやメンターによるサポート、学生と教員をつなぐ「学際教育ルーブリック」といった学生の個性を伸ばす新たな評価方法などを開発・導入していきます。これらは学生が切磋琢磨しながら成長してゆく新しい「学びのエコシステム」です。学生だけでなく、教員や職員にとっても新しい取り組みになるでしょう。プログラムを運営しながら、適切に活動内容を振り返り、評価・改善をくりかえす、いわゆるPDCAサイクルを確立することも大切です。

学生へのメッセージ

私たちは新しい時代の荒波をこえてゆく新しい船を造り、漕ぎ出したところです。新しい「問い」が私たちのエネルギーであり、インテンシブ教育はそれをアクセラレート(加速)するエンジンです。

インテンシブ教育は、いわゆるつめ込み教育が目的ではありません。むしろ逆で、“創造的な余白”を生み出すためのプログラムです。空いた余白を使って自分の関心のあるテーマに、どっぷりハマり、もがき抜いて何かをつかみ取るまでやり遂げる、そういう経験やかけがえのない時間を過ごせる大学をつくりたいと思います。これは大学の研究力を高めることにも寄与するはずです。人と知識がともに成長しながらイノベーションを生み出す、新しい大学の場づくりをめざしていきます。